レポート 「LDおよび関連障害の人の就労支援」
  
講師  宇都宮大学 教授 梅永 雄二 氏
2003年8月24日 於 サンライフ北見 

 

 梅永先生は、学習障害や、注意欠陥多動障害、アスペルガー症候群、高機能自閉症の成人について、新たなカテゴリーを提唱しました。

ALAAHFA
 → Adults with Learning disabilities Adhd,Asperger and High Functioning Autism

 これらALAAHFAの方々が、就職しても離職してしまう理由について、梅永先生はいくつか挙げました。
 
・「同時にいくつかの仕事ができない」
・「上司の要求についていくことができなかった」
・「日によって仕事が変わることに対処できなかった」
・「注文を正しく書くことができなかった」
・「レジスターや他の機械を速く使いこなせなかった」

 これらのことから、就労をうまく進めるためには、雇用する企業の個別的な配慮や、学校教育での早期からの職業教育が必要であると強調しました。

 学校教育は一般的に、「お金が数えられるようになってから、買い物ができるようにする」という「ボトムアップ型教育」です。
 しかし梅永先生は、必要な教育とは、「トップダウン型教育」であるとし、買い物の例では次のように述べました。

 「500円玉一枚でハンバーガーが買える」ことができればいいのです。買い物の経験を積み、お釣りの感覚を覚えればいいのです。

 また、「手先が器用でなければ仕事ができない」という発想ではなく、「地域にどんな仕事があるか調査し、その内容から、指導内容をフィードバックする」ことも、「トップダウン型教育」の考え方であるとし、手先の器用さが就職の前提条件ではないことを強調しました。

 このように、下から基礎を積み上げることを重視する「ボトムアップ型」の日本の学校教育に問題を投げかけ、実践的な職業教育が早期から必要であるとしました。

 また、就労指導のためには、担当者が法律をよく調べて活用し、地域の雇用事情などを足を運んで調べ、つながりを持つことが大切であると力説しました。

 特に、3ヶ月間試しに雇用する「トライアル雇用」の制度や、職場で仕事の仕方を側面から指導してくれる「ジョブコーチ」の制度があることをよく知り、積極的に活用べきだと述べました。

 職場内での「同僚からのはさみの借り方」など、ソーシャル・スキルの習得に困難がある人のために作った、オリジナルのマニュアルビデオの紹介もあり、参加者は熱心に見入っていました。

 就労という観点からの講演は、当会としては初めての経験だけに、大変勉強になりました。

 なお、梅永先生のご著書『LD(学習障害)の人の就労ハンドブック』(出版社 エンパワメント研究所) には、就労についての詳しい内容が載っています。