第4回 からだと心の市民講座
「17才 揺れる思春期ー変貌する家族と社会」
講師 東京慈恵会医科大学教授 牛島 定信先生
報告者 I
1 ケースから
(省略)
2 新しい病態の流れ
<巻き込み型>
1)拒食について
・18世紀に心因性疾患
・20世紀に下垂体前葉障害説(シモン病)
・1960年代に再び心因説(成熟拒否)
・やせ願望、身体像障害、感情抑圧
・最近は、食べて吐く。過食症。(1978年〜)
2)境界性人格障害〜神経症より重症だが、精神病より重症ではない。
・不安定性(対人関係、自己対象像、同一性)
・衝動行為(手首自傷、過量服薬、家庭内暴力、乱買など)
・未熟な衝動活動(悪い自分の排除)
・逆転移の予防と活用
・行動化の処理(洞察よりも、結果の処理を)
例)医師と面接を予定していたある患者が、気分が悪くなって途中で帰った。医師は、患者が来ないため、待たされた。
○洞察による処理では、 「気分が悪くなったとは、どんな気持ちですか?その時の気持ちを考えてください。」となる。これを、人格障害のケースに行うと、落ち着かずウロウロし始める。
○行動化の処理では、「家に帰って、どうしたの?」「それから、どうしたの?」と本人がとった行動を聞きながら、その時の気持ちを一緒に再建していくことが必要。本来、幼い頃に学習すべきことが、学習できていないため。ここで、親の姿の欠落を感じている。
3)解離性障害について
・健忘から、多重人格まで様々。ほとんど外傷性疾患の様相。(フラッシュバック、回避反応、睡眠覚醒障害)
・この治療の場合、激しい攻撃性の処理が重要。ことに、攻撃的な副人格の対処が難しい。
<引きこもり型>
1)対人恐怖症について
・とらわれ、精神交互作用、思想の矛盾
・自我思想の葛藤(父親との葛藤)
・強い克巳心(先達の門を叩く)
・治療者の理想化と一体感
・あるがままの純な心の達成(森田療法)
2)登校拒否(1960年代に生まれた病名)
・高い自我思想と自己愛的傷つき
・母親の期待に対する緊張と葛藤(お父さんみたいになっては、だめよ!)
・治療者に支えられて、現実世界へ
・父親の再発見と同世代関係の形成:母親と引き離すことで、1年くらいで治る。
3)退却神経症(笠原)
・正業不安、活発な副業活動
・優勝劣敗への過敏さ(傷つきの回避)
・母子分離という心理過程の重視
・前エディプス的父親の出現
*治療に時間がかかる。
4)閉じこもり(社会的引きこもり)・・・悪性自己愛
・現実交流のなさ。活発な空想の世界
・現実離れした自我理想
・その背後に、小心、臆病、心配性
・精神の社会復帰計画
3 時代と共に、病態、家族構造に変化
4 先生の思い
・現在は、女性が母親になったり、妻になったりするのが、難しい時代。
・多いのは、20歳で結婚。2〜3人子供を産んで、25歳頃離婚。その後、若い男と結婚する。成熟度の高いカップルならできるが、未成熟な場合、社会的な支援がなければ、虐待等の問題が起きてくる。
・母の胸に抱かれて、支えられているから子は、偉くなれる。
・2〜3歳の時に、ちょっと早く隣の子より歩けただけで、スゴイ子になるんじゃないか?うちの子は、他の子と違うと親は思う。これが、子供の誇りになる。この誇りが大切。最近の子は、それが欠けている。
・「自分の力でやったんだ」と子供が言ったら、それを認めてあげることが大切である。
5 まとめ
○病態は、急速に変化している。対応策ができる前に、次の病態が出現している。
○母性愛の欠損が、いよいよ深刻化
6 質疑応答
Q 3歳児神話が崩れてきている。(3歳までは、母親が育児をする)保育所に任せればいいという考えになってきている。赤ん坊や子供にとっては、迷惑なことと思うが、先生はどう思うか?
A 「時間がないし忙しいから、先生が言うように、うまくはいかない。」と母に言われることが多い。本人の心まで降りなさいと言うが、なかなか難しい。
時間ばかり、長い育児がいいとは思わない。ポイント、ポイントで子どもといかに共感できるかどうかが、大事ではないか?
Q リストカット(手首を切ること)を、母の前でしたケースが釧路にもいる。東京も釧路も、北見も変わらない。世間をあっと言わせるという風潮が強い。世の中全体が、パニック状態であると感じる。これを作っているのは、マスコミだと思う。事件も、マスコミを意識するような行動が多くなっていると感じている。先生は、どう思うか?
A その通りだと思う。当の本人が意識している。しかし、マスコミを消すことはできないので、どうしたらいいか?考えていくことが大切だと思う。
<講演を聞いての感想>